大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(行コ)39号 判決 1971年8月27日

第一審原告 白都太郎

第一審被告 浜松税務署長

訴訟代理人 篠原一幸 外三名

主文

一、第一審被告の控訴に基づき原判決を左のとおり変更する。

「1第一審被告が第一審原告の昭和三一年度分所得税申告の営業所得金額を金一二三万六、五〇〇円と更正した更正決定中、金一一六万八、四六三円を超過する部分は、これを取消す。

2第一審原告のその余の請求を棄却する。」

二、第一審被告のその余の控訴を棄却する。

三、第一審原告の控訴を棄却する。

四、訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その一を第一審被告の、その余を第一審原告の各負担とする。

事実

第一審原告訴訟代理人は、昭和四一年(行コ)第四五号事件につき、「原判決中第一審原告敗訴の部分を取消す。第一審被告が第一審原告の昭和三一年度分所得税申告の営業所得金額を金一二三万六、五〇〇円と更正した更正決定中、金五〇万円を超過する部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を求め、昭和四一年(行コ)第三九号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

第一審被告指定代理人は、昭和四一年(行コ)第三九号事件につき、「原判決中第一審被告敗訴の部分を取消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、同年(行コ)第四五号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠の関係は、左に付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

<証拠省略>

(第一審被告の主張)

一、第一審原告提出の<証拠省略>(金銭出納帳)は、次に述べるように右帳簿に記載されるべき事項が正確に記載されていないのであるから、信頼性がない。

(一) 通常の金銭出納帳においては、現金の収支明細をそのつど記載し、かつ、毎日の現金残高を算出し、この残高と実際の現金残高とを照合して、記帳の正否を確認するわけであるが、<証拠省略>(金銭出納帳)は、貸付金の収支、利息・損害金の収入等につきその一部を記載したメモの集積にすぎず、現金残高の記載もなく、通常の金銭出納帳と全く内容を異にし、これによつては収入金額を算出することはできない。

以下その記載事項の不備を指摘する。

1 <証拠省略>の八頁に、昭和三〇年二月二九日付で五件の収入事項が記載されているが、昭和三〇年には二月二九日が存在しなかつたのであるから、これは真実の記載とはいえない。

2 <証拠省略>の記載中、次のものは日付順に記載されていない。

(イ) 三〇頁の昭和三二年一一月一三日の記載のあとに、同年一〇月三〇日、同月三一日の記載がある。

(ロ) 三二頁の昭和三三年四月一六日の記載のあとに、同月五日、同月七日の記載がある。

(ハ) 四六頁の昭和三六年四月二八日の記載のあとに、同月一二日、同月一七日の記載がある。

3 第一審原告は次のような貸付をしたと主張しているにもかかわらず、<証拠省略>には、その記載がない。

(1)  西川熊平に対する貸付

(イ) 昭和三〇年一一月 四万円

(ロ) 同年一二月    四万円

(ハ) 昭和三一年一月  二万円

(ニ) 同年四月五日   一六万三、五〇〇円

(ホ) 同年同月二五日  一〇万円

(2)  法山高澄に対する貸付

(イ) 昭和三〇年七月  一三万五、〇〇〇円

(ロ) 同年同月     三〇万一、一〇〇円

4 その他、<証拠省略>の記載を仔細に検討すると、第一審原告の主張と矛盾するもの、他の記載から推測して当然あつたものと考えられる利息収入の記載を脱漏したもの等が、貸村先高橋菊雄、同鈴木三郎、同鈴木繁雄、同藤田末吉、同鈴木安次、同袴田勘次、同沢柳三郎、同伊代田政治、同神村繁一について見出だされる。

二、第一審被告は、第一審原告の次の貸付先よりの収入金額に関し、従来の主張を次のとおり補足する。

(一) 貸付先西川熊平分

第一審原告は、西川熊平より、昭和三一年分の利息として次のとおり合計金一六万一、五〇〇円を受領した。すなわち、

(1)  昭和三一年一月に金一五万円を貸付けた際、一か月分の利息として金一万三、五〇〇円を、

(2)  同年四月に金一〇万円を貸付けた際一か月分の利息として金九、〇〇〇円を、

(3)  同年中に、昭和三〇年一二月に貸付けた金五万円の利息の二か月分金九、〇〇〇円を、

(4)  さらに、昭和三一年一〇月に右三口の貸金の利息として金一三万円(元利合計金四三万円を受領したが、その内金三〇万円は貸付金元本である。)を

それぞれ受領した。

(二) 貸付先沢柳三郎分

第一審原告は、沢柳三郎より、昭和三一年分の利息として次のとおり合計金一四万一、五〇〇円を受領した。すなわち、

(1)  昭和三一年四月一六日に金一〇万円を貸付けた際、一か月分の利息として金九、〇〇〇円を、

(2)  同月三〇日に金一〇万円を貸付けた際、一か月分の利息として金九、〇〇〇円を、

(3)  同年五月一六日に金一五万円を貸付けた際に一か月分の利息

として金一万三、五〇〇円を、

(4)  同年一一月二九日に右(1) および(2) の各金一〇万円に対する利息として合計金九万円を、

(5)  同年中に昭和三一年四月五日貸付けた金五万四、五〇〇円に対する利息として合計金二万円を

それぞれ受領したものである。

なお、このほかに第一審原告は、昭和三一年度分として、沢柳三郎に対する昭和三一年四月五日貸付の金五万円および同年五月一六日貸付の金一五万円につき未収利息金一一万一、八九五円の債権がある。

(三) 貸付先村松良作分

第一審被告においてその後調査したところによれば、村松良作は昭和二九年頃から昭和三三年八月頃まで、第一審原告より引続き金五万円を下らない金銭を借入れ(三、四回書き替え、その都度借入金額は異なつた。)、その利息として一か月少なくとも金五、〇〇〇円宛を第一審原告に支払つていたことが判明した。したがつて、第一審原告は昭和三一年中に右村松より少なくとも合計金六万円の利息を受領している。

(四) 貸付先鈴木栄一分

<証拠省略>の記載のうち、「滞つた利息に対する利息分だけはまけて貰つて、元利金全額支払いました。」とあるのは、「重利部分だけはまけて貰つたが、貸付金元本と未払であつた毎月分の利息は全額支払つた。」との意味であつて、昭和三一年中に利息合計金三万九、七七〇円を支払つたことになる。原判決が約定による利息の半額金一万九、八八五円を支払つた旨認定したのは、誤りである。

三、原判決は、所得税法上の所得の概念を誤解し、旧所得税法第一〇条第二項の「収入すべき金額」の解釈、適用を誤つたものである。

(一) 所得税法の所得は、これに担税力を認めて課税の対象とされるものであり、担税力は経済的実質をいうものであるから、所得およびこれを構成する収入の概念は、経済上、実質上の見地から把握すべきである。したがつて、経済的利益が担税力を認めうる程度に支配享受される状態に達するならば、所得税法上の収入となり、課税の対象となるものであつて、必ずしもその経済的利益を収受保有することについて私法上の保護を必要とするものではない。このことは、旧所得税法第三条の二の「実質課税の原則」の規定および同法第二七条二の「更正請求の特則の規定」(所得の計算は、経済的成果を享受しうる法律上の権利があるかどうかにより決すべきではなく、その経済的成果が現実的、実質的にあつたかどうかによるべきであることを前提としている。)が存在することからも明らかである。

ところで、利息制限法所定の制限を超過する未収の利息・損害金は、私法上無効のものではあるが、一般的には現実の収受をまたなくても、約定の弁済期の到来により課税の対象となるほどの経済的実質を備えれば、所得税法上の所得を構成するに至るものである。

すなわち、利息制限法所定の制限を超過する未収の利息・損害金であつても、債務者は任意に弁済し、債権者もまたこれを期待しているのが通常である。債務者としては、たとい制限超過の利息・損害金を支払う法律上の義務はないことを知つていても、元本の返済、特に担保物の処分の猶予を得るためや、今後の金融上の便宜を考慮し、あるいは手形の不渡などによる社会的信用の失墜を免かれるためなどの事実上の考慮から、可能な限り制限超過の利息・損害金を支払うのが通常であり、債権者としても実際にこれを回収する可能性が極めて高いといいうる。このことは、利息制限法の制定にもかかわらず、所謂街の金融において右制限超過の利息・損害金を約定し、収受するのが常態であり、その経営は制限超過の利息・損害金収入を基礎として行なわれているという実情からも肯認できる。すなわち、制限超過の利息・損害金の請求は、法の保護を欠きながらも、通常その現実を見るに至つているのが今日の社会の実態である。したがつて、制限を超過する利息・損害金は、現実に支払われなくても、所得税法上の所得と見られるべきである。

(二) しかるに、原判決は、「収入すべき金額」とは、「収入する権利の確定した金額」をいうものと解し、「収入をもたらす請求権が法律的に保護されていることを要するもの」と判示している。

なるほど、一般的には「収入すべき金額」とは、「収入する権利の確定した金額」をいうものと解されている。しかし、収入金額を「収入すべき金額」としているのは、収入計上時期についても現金主義によらず収入される金額の確定した時期とするとともに、原則として債権についての評価を認めない(現実に回収不能の状態になつた時に貸倒れ等として処理する。)ことを示したもので、これが「収入する権利の確定した金額」とされているのは、その趣旨を明らかにするだけであつて、これをもつて未収金について法律上の保護を要する根拠とはならない。

(三) なお、原判決のように現実の支払によつて所得に計上すべきものと解すると、次のような不都合がある。すなわち、利息制限法の制限超過の約定による貸金は多く貸金業者によつて行なわれるのであるが、この場合に制限内の利息・損害金と、制限超過の利息・損害金を正確に区分して計理記帳することは、実際問題として複雑困難であり、また、かような区分の必要が具体的に生ずるのは、債務者から任意弁済が得られないため、訴の提起、抵当権の実行などの手段に訴える段階になつてからであつて、それまではかような区分計理をしないで処理するのが通常であると考えられ、税関係においてのみかような区分計理をして申告させることは、実情に即しないものといえる。さらに、貸金業者には、貸借関係の明細を示す書類を一切借主に交付しない者が多いので、原判決のような見解によると、貸主が自ら右のような区分計理を行ない、かつ、現金の収受について正確な記帳をし、一切の資料と計算を課税庁に提示しない限り、課税庁は十分な課税資料を入手することは困難であり、実際には担税力のある貸金業者が事実上容易に課税を免れる結果にならざるをえない。

仮に制限超過の利息・損害金債権が、法律上無効なるがゆえに貸倒れになる場合があるとしても(借主が、利息制限法違反を理由に制限超過の利息等の支払を拒否する態度を確定的に示せば、借主に資力はあつても貸倒れと認められよう。)、貸倒れ損失の計上によつて処理しうるのであつて、第一審被告主張の解釈によつても、納税者に過重の租税負担を強いることになるものではない。

四、元本債権が存在する限りは、貸主の受領した利息・損害金中制限超過部分は元本に充当され、終局的には受領金員の全部が利息・損害金収入とはならない場合が起りうる。その他、未収であると既収であるとを問わず、裁判所に持ち出して争われれば、制限超過部分の利息・損害金は常に収得しえない結果となる。

もとより、制限超過の利息・損害金は、その超過部分の支払が期待できない特殊な事情(例えば、債務者が支払能力を失ない事実上回収不能に帰した場合とか、貸金回収のため訴訟等の法的手続をとつた場合等。)が存在しない限り、事実上の力その他の支配力(例えば低当権を実行する旨債務者に告げる等。)によつて、実際にこれを回収する蓋然性の方がむしろはるかに高いのであり、これを所得税法上「収入すべき金額」として構成するのが相当であることは前述のとおりであるが、それにもかかわらず、受領した制限超過利息が元本に充当せられ、あるいは超過利息の支払を受けえなくなる事態が現実に生ずることがあることは否定できず、係争年度にかかる事態が生じた場合には、「収入すべき金額」について変更があることになる。よつて、疑問のある貸付先別に検討すると、次のとおりである。

(一) 貸付先沢柳三郎分

(イ)の昭和三一年四月五日の貸付金五万四、五〇〇円および(ニ)の昭和三一年五月一六日の貸付金一五万円について静岡地方裁判所に訴訟が係属したのは、昭和三二年であつて、係争年ではない。しかも係争年中に右二口の利息として合計三万三、五〇〇円が支払われている。

(二) 貸付先法山高澄分

第一審原告は、法山高澄に昭和三〇年に貸付けた貸金については、昭和三一年に訴訟が提起されたので、従来の約定利率を法定利率に変更したものと見るべきである旨主張するが、昭和三一年に提起された訴訟は所有権移転登記を求めるための訴訟であつて、貸金請求訴訟ではなく、また競売の申立でもない。この訴訟の提起の段階では、まだ従来の約定利率を法定利率に改訂する意思があつたとは断定できない。しかも債務者において資金繰りの関係から未払になつたものの、約定どおりの利息を支払う意思能力のあつたことは、<証拠省略>によつて明らかである。

(三) 貸付先寺田善太郎分

第一審原告は、寺田善太郎に対する昭和二九年一一月二九日の貸付金二万円および昭和三〇年一〇月三一日の貸付金一六万円については、昭和三一年に訴訟が提起されたので、従来の約定利率を法定利率に変更したものと見るべきである旨主張するが、昭和三一年に提起された訴訟は所有権移転登記を求める訴訟であつて、貸金請求訴訟ではなく、右訴訟の提起のみでは、約定利率を法定利率に改訂する意思があつたと見ることはできない。

(第一審原告の主張)

一、<証拠省略>(現金出納帳)の記載は、正確であつて信用の置けるものである。昭和三一年中には現金収入がなく、債権として存在していたにすぎなかつた鈴木重一郎、沢柳三郎、鈴木俊雄、法山高澄、神村繁一等の分については、後年現金収入があつた時漏れなく正確に記入しているのである。

第一審被告指定代理人は、右出納帳が現金残高の算出がないこと、通常の金銭出納帳と内容が異なること等から、その信頼性を否定するけれども、右帳簿は金銭出納帳ではなくて、むしろ、貸付台帳と言うべきものである。同指定代理人の指摘する右帳簿の記載事項の不備につき反論を述べると、

1 「昭和三〇年二月二九日」という記載は、「昭和三〇年三月一日」の誤記と見れば、なんでもない。

2 日付順に記載されていないというが、指摘する程度の記載順序の前後があつても、真実を疑わしめることはない。

3 西川熊平は、昭和三一年一〇二九日貸付時に天引がなかつたので、元金貸付の記載を省略してある。返済した時の利息の収入は正確に記入してある。

法山高澄も、貸付の際天引せず、天引利息の収入がなかつたので、元金貸付の記載を省略してある。返済した時の利息の収入は正確に記入してある。

4 貸付先高橋菊雄、同鈴木三郎、同鈴木繁雄、同藤田末吉、同鈴木安次、同袴田勘次、同沢柳三郎については、現実に収入があつた金額を正しく記入してある。もし約定利息が一〇〇パーセント約定どおり支払われるものであるとすれば、金融業者で損をするものは一人もいない。計算上収入せらるべき収入が現実に領収されない時でも、これを記帳しなければ記入漏れであると言うのであれば、あまりにも納税者に対し苛酷である。

貸付先伊代田政治については、元金六万円貸付時には、利息天引をしなかつたのであり、元金支出は課税対象とならないので、その記載を省略した。利息期間については、誤記があるが収入金額の計算には誤りがない。

貸付先神村繁一については、元金一三万円貸付時には、利息天引をしなかつたのであり、元金支出は課税対象とならないので、その記載を省略した。

二、貸付先別利息計算について

(一) 貸付先西川熊平分

(1)  昭和三一年一月一五日金一五万円貸付の際、月九分の割合による一か月分の利息一万三、五〇〇円を天引せず一五万円全部を手渡した代りに、返済元金を一六万三、五〇〇円とする契約をした。故に貸付元金の計算において、金一五万円を、金一六万三、五〇〇円と訂正する必要がある。

(2)  昭和三一年中に、昭和三〇年一二月貸付けた金五万円の利息の二か月分金九、〇〇〇円を受領した事実はない。

西川熊平は、訴外疋田昌二に対し自己の家屋と土地を売却し、その代金をもつて昭和三一年一〇月二九日に元利合計金四三万円を返済したものであつて、右不動産を売却するまでは、利息を支払う余裕はなかつた。

<証拠省略>(疋田昌二作成の名古屋国税局長宛申立書)の内容は真実であつて措信し得べく、<証拠省略>の内容は真実でない。

(二) 貸付先沢柳三郎分

貸付の実際においては、利息を天引せずに元金を全額渡し、その代わり返済元金を天引されるべき分だけ上積みするというケースが相当多い。この場合、天引しない利息は利息収入とならないから記載しないことはもちろん、貸付元金の支出も、課税対象とはならないから、時に省かれる。

本件において、貸付時に全部利息を天引したとの所得計算は否認する。

(三) 貸付先鈴木栄一分

本件貸付は昭和三一年度に関係がないのであるが、念のために述べると、第一審原告は営業上重利は一件も取つておらないのであるから、<証拠省略>中の「滞つた利息に対する利息分丈は「まけて」貰つて、元利金共金額支払いました。という文言は、普通の利子をまけて貰つたと読むのが正しい。

三、未収の利息制限法超過利息は、所得税法上の「収入すべき金額」には該当しないものと解すべきである。次にその論拠を述べる。

(一) 法律的にその実現が保障されていない未収利息は、「収入すべき金額」に該当しないことは、広く学説で認められている。

(二) 制限内の利息・損害金と、制限超過の利息・損害金を正確に区分して計理記帳することが困難であるから、全部に課税すべきであるというが、これこそまさに本末を転倒した理論である。課税技術上困難があるからと言つて、法律上「収入すべき金額」でないものに課税することは許されない。

(三) 制限超過の利息・損害金が法律上無効なるが故に貸倒れになる場合があるとしても、貸倒れ損失の計上によつて処理しうる方法があるから、課税しても差支えないというが、貸倒れ処理を認める時期に問題がある。

すでに債務者の任意の支払を期待できない段階となり、支払命令、調停の申立をしあるいは訴訟を提起した場合には、すべて制限利息の範囲内で申立をしているのであるから、この時期に制限外未収利息は放棄したものと認定し、貸倒れ処理を認むべきである。しかるに税務署は、後に至つて判決が言渡されあるいは和解が成立した場合にはじめて貸倒処理を認めるが、それまでは三年でも五年でも未収債権として所得税を課するのである。納税者にとつてこんな馬鹿な話はない。

四、各貸付先別に右理論の適用を検討する。

(一) 貸付先沢柳三郎分

合計金四〇万四、五〇〇円の貸付金のうち、昭和三一年一一月三〇日に金二〇万円が返済されたが、残額は返済されなかつた。それでやむなく強制執行手続を経て、昭和三三年二月一七日元金二万円、同年三月一一日元金一八万五、四〇〇円と年一割八分による利息二二か月分金五万四、六〇〇円を受領して解決した。かかる場合に、右解決に至るまでは、月九分の約定利息を未収債権として課税するというのは明らかに不合理である。

(二) 貸付先鈴木俊雄分

一一万円の貸付金については、昭和三一年一〇月二日に支払命令の申立をしたのであるから<証拠省略>、この時点で貸倒れを認めるべきである。

(三) 貸付先法山高澄分

昭和三一年三月二八日所有権移転登記手続を求める訴訟を提起し<証拠省略>、同年七月一三日右訴訟の準備書面を提出しているので<証拠省略>、この時点において制限外未収利息の放棄があつたものとして、貸倒れ処理を認むべきである。

(四) 貸付先寺田善太郎分

昭和三一年中に、貸金につき抵当権設定登記手続請求訴訟を、浜松簡易裁判所に提起し、昭和三二年三月一三日にその判決があり、同年九月一三日静岡地方裁判所の控訴審判決があつた。訴の提起がなされたのは昭和三一年中であるから、この時点において貸倒れ処理を認むべきである。

<証拠関係省略>

理由

第一、第一審原告は農業を兼業とする金銭貸付業者であるところ、昭和三一年度分の所得税について、その主張のごとき内容の確定申告をしたこと、第一審被告は昭和三二年四月六日右確定申告の営業所得金額五〇万円を一二三万六、五〇〇円と更正決定し、同年五月三一日これに関する第一審原告の再調査請求を棄却したこと、第一審原告がさらに名古屋国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和三三年九月一九日右審査請求を棄却したことは、いずれも当事者間に争がない。

第二、さて、昭和三一年度における第一審原告の営業所得を判断するに当たつて、先ず、利息制限法の制限を超過した約定利息(遅延利息を含む。以下同じ。)が課税の対象たる所得となるかどうかの点について当裁判所の見解を述べるに、所得税は、担税力に応じて公平な税負担の実現を期すべきものであるから、同法上所得の概念は、経済的、実質的に把握すべきであり、したがつて、法律上その実現を保護されない利息制限法超過の利息債権であつても、現実に受領され、あるいは将来の受領を期待できない特殊な事情の存しない以上、課税の対象たる所得を構成するものと解するのが相当である。但し、現実に受領されても、当該年度内に元本への弁済充当の処理がなされあるいはその返還がなされた事実が立証されたような場合には、その限度において所得を構成しないものと解すべきは当然である。問題は、未収の超過利息債権についていかなる場合に将来の受領を期待できない特殊な事情があるといえるかであるが、債務者が当該年度においてすでにこれを支払意思・能力を有しなかつた場合には、将来の受領を期待できない特殊な事情の存するものとして、所得を構成しないものと解すべきである。しかして、制限超過の利息を支払う約定の下に貸付を受けた債務者は、一般的にこれを任意に支払う意思・能力を有していたものと推定されるから、右意思・能力を失つた事実ならびにその時期は、これを主張する者において立証すべきである。

第三、以上の見解に立つて、昭和三一年度において第一審原告に金一二三万六、五〇〇円を超える営業所得があつたかどうかの点について、判断をすすめる。

一、同年度における第一審原告の営業収入のうち、原判決添付別紙営業収入明細表(I)記載の分合計金一三万二、三九五円については、当事者間に争がない。

二、同明細表(II)記載の分については争が存するわけであるが、当裁判所はこのうち、貸付先1高橋菊雄分、同2鈴木三郎分、同3鈴木よね分、同4鈴木梅作分、同5鈴木繁雄分、同6中村政次分、同7鈴木秀男分、同8藤田末吉分、同9鈴木重一郎分、同10加茂一分、同11鈴木安次分、同12袴田勘二分、同14山田貞雄分、同16伊代田政治分、同19松下勲次分、同20山本七郎分、同24横原猛分、同25田中政雄分については、昭和三一年度中にそれぞれ原判決がその理由中で認定したとおりの営業収入が現実にあつたものと判断する。その理由は、原判決理由中該当部分の記載と同一であるから、これを引用する。当審における第一審原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。よつて、右営業収入を合計すると、金四四万六、六七八円となる。

次に、右貸付先以外の分について順次検討する。

(一)  貸付先13西川熊平分

<証拠省略>を総合すれば、第一審原告は、西川熊平に対し、(1) 昭和三〇年一二月に金五万円を、(2) 昭和三一年一月に金一五万円を、(3) 同年四月に金一〇万円をいずれも利息月九分、毎月支払の約で貸付け、昭和三一年中に、(1) の貸付金の約定利息二か月分金九、〇〇〇円、(2) の貸付金の一か月分の天引利息金一万三、五〇〇円、(3) の貸付金の一か月分の天引利息金九、〇〇〇円を受領し、さらに同年一〇月に右三口の貸付金の元利合計として金四三万円を受領し、このうち一三万円を利息に、三〇万円を元金に充当して完済があつたものとし、結局第一審原告は昭和三一年中に右合計金一六万一、五〇〇円の利息を現実に受領したことを認めることができ、<証拠省略>中西川熊平関係の記載部分のうち右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  貸付先15沢柳三郎分

<証拠省略>によれば、第一審原告は、訴外中村きくゑに対し、沢柳三郎を連帯保証人として、(1) 昭和三一年四月五日に金五万四、五〇〇円を、(2) 同年四月一六日に金一〇万円を、(3) 同月三〇日に金一〇万円を、(4) 同年五月一六日に金一五万円をいずれも利息月九分、毎月支払の約で貸付け、(2) ないし(4) の貸付に際し、それぞれ月九分の割合による約定利息一か月分(すなわち(2) 、(3) につき各九、〇〇〇円、(4) につき一万三、五〇〇円)を天引し、また、昭和三一年中に(1) の貸付金の利息として合計金二万円を受領し、さらに、同年一一月二九日に(2) 、(3) の貸付金の元金二〇万円の返済を受け、その際右二口分の利息として合計金九万円を受領し、結局第一審原告は昭和三一年中に合計金一四万一、五〇〇円の利息を現実に受領し、そのほか、同年中に、(1) の貸付金五万四、五〇〇円に対する昭和三一年四月五日から同年一二月三一日までの月九分の割合による利息および(4) の貸付金一五万円に対する同年五月一六日から同年一二月三一日まで月九分の割合による利息、以上未収利息合計金一一万一、八九五円の弁済期の到来した債権を有していたこと、第一審原告は、昭和三二年中に沢柳三郎を被告として右(1) および(4) の貸付金の支払を求める訴を静岡地方裁判所浜松支部に提起し、昭和三三年一月二九日、沢柳三郎は第一審原告に対し(1) の貸付金元金五万四、五〇〇円およびこれに対する昭和三一年四月五日から完済まで年一割八分の割合による利息を昭和三三年二月一五日までに、(4) の貸付金の残元金一四万〇、七三五円およびこれに対する昭和三一年五月一六日から完済まで年一割八分の割合による利息を昭和三三年二月末日までに各支払い、第一審原告は沢柳三郎に対するその余の請求を放棄する旨の裁判上の和解が成立したことを認めることができる。同人が昭和三一年度中にすでに(1) 、(4) の貸付金につき約定利息を支払う意思・能力をなくしていた事実は、これを認めるに足る証拠がない。

(三)  貸付先17鈴木俊雄分

<証拠省略>を総合すれば、第一審原告は、鈴木俊雄に対し、(1) 昭和二九年一〇月二六日に金一一万円を、利息一か月につき金一万円を毎月支払う約で、訴外夏目健一郎を保証人として貸付け、一か月分の天引利息金一万円を含め六、七回約定利息の支払受け、昭和三一年中にさらに二回約定利息の支払を受けたが、前の年度の未納分に充当し、昭和三一年一〇月二日保証人夏目健一郎を債務者として金一一万円およびこれに対する昭和三〇年二月二六日から完済まで年三割六分の割合による損害金の支払を求める支払命令の申立をし、昭和三二年六月に元利金合計一五万円の支払を得て、示談で解決し、(2) 昭和三〇年三月八日金六万三、〇〇〇円を、弁済期同月一七日、遅延損害金日歩三〇銭の約で、訴外山内直温を保証人として貸付け、その際金三、〇〇〇円の利息を天引したが、以後元利金の支払を得られず、訴訟を提起した結果、昭和三一年二月二一日に、鈴木俊雄(被告、被控訴人)に対し金六万円およびこれに対する昭和三〇年三月一八日より完済まで年四割の割合による遅延損害金の支払を命じ、その余の第一審原告の請求を棄却した第一審判決を正当として、第一審原告の控訴を棄却する旨の控訴審判決の言渡があり、昭和三二年七月一六日保証人山内直温より右元利金および諸費用として合計金一三万円の支払を受けて解決したことを認めることができる。

右認定の事実によれば、鈴木俊雄は、(1) の貸付金につき昭和三一年中にすでに約定利息を任意に支払う意思をなくし、第一審原告は、やむなく同人に対する貸付金および利息制限法の範囲内の損害金を回収するため同年中に保証人夏目健一郎を債務者として前記のとおり支払命令の申立をしたものと認めるのを相当とし、また、(2) の貸付金については、係争年度中に判決があつたので、その趣旨に従つて利息計算をするのを相当とするから、第一審原告の昭和三一年度の「収入すべき金額」は、(1) の貸付金一一万円に対する利息制限法上損害金の最高限である年三割六部の割合による損害金三万九、六〇〇円および(2) の貸付金六万円に対する年四割の割合による損害金二万四、〇〇〇円、以上合計金六万三、六〇〇円となる。

(四)  貸付先18鈴木喜太郎分

第一審原告が昭和三一年以前に鈴木喜太郎に対し金五、〇〇〇円を貸与し、昭和三一年六月一二日に同人から元金五、〇〇〇円と六か月分の利息三、〇〇〇円を受領したことは、第一審原告の認めるところである。<証拠省略>は、その記載内容が極めて漠然としており、未だこれをもつて第一審被告主張のとおり、昭和三一年度において、第一審原告に、元金六万円に対する月九分の割合による利息の一年分、すなわち金五、四〇〇円の利息収入が現実にあつた事実ないしは右債権の存した事実を認める資料とはなし難い。

(五)  貸付先21法山高澄分

<証拠省略>を総合すれば、第一審原告は、法山高澄に対し、利息月一割、毎月支払の約で、(1) 同人所有の山林二筆につきこれを担保とする趣旨で昭和三〇年一月一五日付売買を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した上、昭和三〇年一月一五日から同年三月末までの間に合計金三三万円を貸付け、同年七月一八日までに同日までの約定利息と元金のうち金一九万五、〇〇〇円の支払を受けたが、残元金一三万五、〇〇〇円およびこれに対する利息については支払をえないまま経過し、また、(2) 昭和三〇年七月一八日に金一万二、五〇〇円を、(3) 同月一九日に金三万円を、(4) 同月二二日に金三万円を、(5) 同月二八日に金八、六〇〇円を、(6) 同年八月五日に金四万五、〇〇〇円を、(7) 同月一五日に金一二万円を、(8) 同月二三日に金五万五、〇〇〇円を貸付けたが、これらについても元利金の支払をえないまま経過したので、前記(1) の貸付金残元金一三万五、〇〇〇円と、(2) ないし(8) の貸付金合計三〇万一、一〇〇円以上合計金四三万六、一〇〇円相当の代金をもつて、前記山林二筆を買受け、その代金をもつて、右貸付金に充当することとし、昭和三一年中に、その引渡ならびに所有権移転の本登記手続を求める訴を静岡地方裁判所浜松支部に提起したところ、昭和三二年二月二一日法山高澄との間において、同人が第一審原告に対し元利合計金五六万七、〇〇〇円の消費貸借に基づく債務および金五万円の約束手形金債務があることを確認し、昭和三二年二月末までに金五六万七、〇〇〇円、同年六月末日までに金五万円を支払う旨の裁判上の和解が成立したことを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、法山高澄は、昭和三一年中にすでに約定利息を任意に支払う意思をなくし、第一審原告はやむなく同人に対する貸付金およびこれに対する利息制限法の範囲内の損害金を回収するために、同年中に同人に対し、担保として売買による所有権移転請求権保全の仮登記をしてあつた山林二筆について引渡ならびに本登記を求める訴を提起したものと認めるのを相当とするから(<証拠省略>は末だ右認定を覆す資料となし得ない)、第一審原告の昭和三一年度の「収入すべき金額」は右各貸付残元金に対する利息制限法上損害金の最高限の割合により計算した金額であるとすべきである。

よつて、(1) の貸付金残一三万五、〇〇〇円および(7) の貸付金について年三割六分、その余の貸付金について年四割の割合により計算すると、その合計は金一六万四、二四〇円となる。

(六)  貸付先22神村繁一分

<証拠省略>を総合すれば、第一審原告は神村繁一に対し、利息月一割、毎月支払の約で、(1) 昭和二九年一二月七日に金二万円を、(2) 昭和三〇年一月八日に金一三万円を各貸付け、前者につき一か月分の利息二、〇〇〇円を貸付時に天引したほか、元利金の支払をえないまま経過したので、第一審原告は、やむなく昭和三一年八月頃同人を被告として右各貸付金の支払を求める訴を提起し、同人において同年九月二日右貸付金の元金合計一五万円を供託し、結局昭和三二年夏頃右各貸付金およびこれに対する利息制限法上損害金の最高限の割合による損害金を支払う示談が成立して解決したことを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、神村繁一は、昭和三一年中にすでに約定利息を任意に支払う意思をなくし、第一審原告は、やむなく同人に対する貸付金およびこれに対する利息制限法の範囲内の損害金を回収するために、同年中に同人に対し訴訟を提起したものと認めるのを相当とするから、第一審原告の昭和三一年度の「収入すべき金額」は、右各貸付金に対する利息制限法上損害金の最高限の割合により計算した金額であるとすべきである。

よつて、(1) の貸付金二万円について年四割、(2) の貸付金について年三割六分の割合により計算すると、その合計は金五万四、八〇〇円となる。

(七)  貸付先23寺田善太郎分

<証拠省略>を総合し、これに弁論の全趣旨を参酌すれば、第一審原告は、寺田善太郎に対し、利息月九分、毎月支払の約で、(1) 昭和二九年一一月二九日金二万円を貸付け、その際一か月分の約定利息を天引し、(2) 昭和三〇年一〇月三一日金一六万円を弁済期昭和三一年一月三〇日、損害金日歩三〇銭と定めて貸付け、その際月九分の割合による三か月分の利息合計金四万三、二〇〇円を天引し、残額金一一万六、八〇〇円を現実に交付し、その後右貸付金二口に対する元本および利息の支払をえないまま経過したこと、第一審原告は、昭和三一年中に、寺田善太郎を被告として、畑二筆に対し、(2) の貸付金一六万円につき昭和三〇年一〇月三〇日低当権設定契約を原因とする抵当権設定登記手続を求める訴を提起し、昭和三二年三月一三日原告勝訴の第一審判決の言渡があり、その後控訴審に係属した結果、同年九月天引利息金四万三、二〇〇円のうち金五、二五六円を正規の利息とし、残金三万七、九四四円を元本の支払に充てたものとみなし、残元金一二万二、〇五六円、弁済期昭和三一年一月三〇日、損害金年三割六分なる債権を担保するために寺田善太郎に対し畑二筆に抵当権設定登記手続を命ずる控訴審判決の言渡があり、右判決はその頃確定したことを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、寺田善太郎は、昭和三一年中にすでに(1) および(2) の貸付金について約定利息を任意に支払う意思をなくし、第一審原告は、やむなく同人に対する(2) の貸付金およびこれに対する利息制限法の範囲内の損害金を回収する実質的な方法として、同年中に同人に対し前記訴訟を提起したものと認めるものを相当とするから、第一審原告の昭和三一年度の「収入すべき金額」は、各貸付金(残金)に対する利息制限法上損害金の最高限の割合により計算した金額とすべきである。

よつて、(1) の貸付金二万円について年四割、(2) の貸付金残元金一二万二、〇五六円について年三割六分(但し昭和三一年一月三一日以降)の割合により計算すると、その合計は金四万八、二七八円となる。

(八)  貸付先26村松良作分

<証拠省略>を総合すれば、第一審原告は、村松良作に対し、昭和二九年頃から昭和三三年八月頃まで、引続き金五万円を下らない金額を、利息月一割、毎月支払の約で貸付け、その利息として一か月少なくとも金五、〇〇〇円宛受領し、したがつて、昭和三一年中に少なくとも合計金六万円の利息を現実に受領したことを認めることができ、<証拠省略>は、末だ右認定を覆す資料とすることはできず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(九)  貸付先27鈴木栄一分

<証拠省略>を総合すれば、第一審原告は、昭和三〇年一二月中に鈴木栄一に対し金一〇万円を、利息月九分、毎月支払の約で貸付け、最初の一か月分の利息天引し、昭和三一年一月分以降の利息の支払については一部滞つたこともあつたが、昭和三一年五月一三日、右元金および同日までの未払利息の全額の支払を受け、結局昭和三一年中に利息合計金三万九、七七〇円を現実に受領したことを認めることができる。<証拠省略>の、「昭和三一年五月一三日には滞つた利息に対する利息分丈はまけて貰つて、元利共全額支払いました。」という記載は、利息に対する利息すなわち重利は取られなかつたという意味に解すべきことは、文理上当然であつて、利息全部の免除を受けたという意味に解すべきではない。

(十)  貸付先28神田みさ子分

<証拠省略>を総合すれば、第一審原告は昭和三一年一〇月末に神田みさ子に対し金三万円を、利息月八分、毎月支払の約で貸付け、最初の一か月分の利息を天引し、以後大体において毎月右利息の支払を受け、昭和三三年三月頃当時滞つていた利息のうち五〇〇円を免除して元利金全部の支払を受け、昭和三一年中に利息合計金四、八〇〇円を現実に受領したことを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

よつて右(一)ないし(十)の営業収入を合計すると、金八五万三、三八三円となる。

そうすると、昭和三一年度における第一審原告の営業による総収入金額は、金一三万二、三九五円と、金四四万六、六七八円と、金八五万三、三八三円とを合算した金一四三万二、四五六円となることは、計数上明らかである。

第一審原告は、<証拠省略>(第一審原告作成の金銭出納帳)の記載の正確性を強調するが、税務対策上故意にその記載を落した収入があることは、第一審原告が自ら原審において供述しているところであり、右記載中前記認定に矛盾する部分は、前記認定に供した証拠に照らし、措信し難い。

第四、右総収入金額一四三万二、四五六円より控除すべき昭和三一年度における総支出金額を検討するに、公租公課金二万七、二二四円、交通費金一、五〇〇円、修繕費金二万三、六〇〇円、雑費(訴訟費用)金一五万二、六〇五円および減価償却費金二万六、〇四六円以上合計二三万〇、九七五円を支出金額として計上すべき点については、当時者間に争がない。第一審原告は、このほか原判決添付別紙貸倒損失明細表中第一審原告主張分記載のとおりの貸倒損失金が支出金額となる旨主張するが、同表記載の相手方よりの昭和三一年度における第一審原告の営業収入は、前記認定のとおりであつて、第一審原告主張の利息免除、無収入等の事実は認められないから、貸倒損失金に関する第一審原告の主張はすべて理由がなく、貸倒損失金としては、第一審被告の自認する鈴木俊雄分金三万三、〇一八円(同明細表中第一審被告主張分)が認められるにすぎない。

したがつて、同年度における第一審原告の総支出金額は、前記金二三万〇、九七五円に右三万三、〇一八円を加えた金二六万三、九九三円となる。

しかして、前記第三において認定した第一審原告の昭和三一年度における総収入金額一四三万二、四五六円から右金二六万三、九九三円を差引くと、金一一六万八、四六三円となり、この金額が昭和三一年度における第一審原告の営業所得であるから、第一審被告のなした更正決定額金一二三万六、五〇〇円のうち、右金額を上廻る部分は、失当として取消を免れない。

第五、第一審原告は、第一審被告のした所得更正決定が正しいとするためには、右更正決定額算出の根拠となつた内訳の所得につき逐一主張、立証されていなければならない旨主張するが、その理由のないことは、原判決理由五の説明(原判決二六枚目裏二行目から二七枚目表三行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

第六、以上の次第で、第一審原告の本訴請求は、第一審被告のなした更正決定のうち第一審原告の昭和三一年度分営業所得金額一一六万八、四六三円を超過する部分の取消を求める限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきであるから、第一審被告の控訴に基づき、原判決を主文第一項括弧内のとおり変更することとし、第一審被告のその余の控訴および第一審原告の控訴は理由がないからいずれもこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅賀栄 川添万夫 秋元隆男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例